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CHEREVICHKIOTVICHKI、真に美しいもの
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FEATURE vol.18


CHEREVICHKIOTVICHKI

CHEREVICHKIOTVICHKI

CHEREVICHKIOTVICHKI

なんども唱えてみるが、こんなに覚えられらない名前も珍しい。

チェレビチキオビチキ

チェレビチキオビチキ

チェレビチキオビチキ

まるでハリーポッターに出てくる呪文みたいだけど、これは、ロンドンのシューズブランドの名だ。
語源は、古いスラブ語の「Cherevichk ot Vichki」。「ヴィクトリアがつくった靴」を意味する言葉で、子どもの言い回しだそうだ。その名の通り、デザイナーVictoria Andrejevaがデザインからすべてを手がけている。

目にする機会は少ないかもしれないが、〈yohji yamamoto〉とのコラボなど、知る人ぞ知るコアなシューズブランド。

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彼女の靴は、1980年代、ソ連支配時のリトアニアで過ごした自身の幼少期の思い出と、当時の子供靴をもとにデザインされている。どこかノスタルジアを感じさせるのは、そのためだろう。
ビンテージライクな見た目は、それでいて新しくもあり、発色や加工がとても珍しい。(聞けば染料まで自分でつくっているという徹底したこだわり。)使用されているエキゾチックな皮革は、仕入れはアジアで、加工はイタリア・トスカーナ。生産工程はすべて、ロンドンにあるVictoriaのアトリエで行われる。

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当バイヤーがデザイナーVictoriaに初めて会ったのは、2018年3月の、パリの展示会。広いパリの一角、小さな部屋で、その空間は白い紙に覆い尽くされていた。彼女自身も白い服装で、ブロンドの髪が、その中に溶け込んでいた。
エアエイジでは予てからレザーシューズのブランドを開拓したいと考えていて、そんな時にタイミングよく紹介してもらえたのが、この「CHEREVICHKIOTVICHKI」。白い部屋の中浮かび上がる靴たちは、普通ではなく、かといって奇を衒ったものでもなく、不思議な魅力を纏って、バイヤーの心に入ってきた。

絶妙なヒールの高さやフォルム、素材感が生み出す、独特の美しさ…
その時の気持ちの高まりが上手くマッチして、ほとんど直感的に、エアエイジでの販売が決まった。それはまるで、自分ではどうすることもできない、一目惚れのように。

あとあと思うと、女性デザイナーがつくるメンズシューズだからこそのアンバランスさも、魅力的だったのかもしれない。無骨さの中に、女性でしかつくり得ないような繊細さがあるのが面白い。エアエイジセレクトのお洋服がお好きな方なら、きっと楽しめるバランスだと思う。
そして何より、自分の靴の素晴らしさをプレゼンするVictoriaの姿が印象的だった。確固たる信念を持って、ひとつの嘘もつかずものづくりをしているんだなと、そんな気がした。

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Victoriaは、本を頼りに独学で靴づくりを学んだそうだ。小さい頃から、ただ物づくりがしたくて…

「CHEREVICHKIOTVICHKI」の特徴の一つに、ブランドの目印、つまりロゴマークなどがない、ということがある。中敷にも何も書かれていないし、あるのは靴底に印字された控えめな文字のみ。一見主張がないんだけど、それは、その物自体に価値を見出しているからかもしれない。

私が思うに、彼女は、ブランドを持たずとも靴をつくり続けるに違いない。きっと、どんな人がそれをどういう思いで履くかよりも、自分がそれを「つくること」が重要なのだ。

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これは余談だが、私の知人に、すぐれた画家と作曲家がいる。彼らに面識はないが、揃って「生きているから描いている/書いている」と言っていたことが印象深い。商業的に成功するものを、生きるためにつくることとは違い、生きているから生み出さざるを得ない、絵画や音楽。その美しさは もちろん私たちに感動を与えるが、実のところ誰かのためではなく、自分のためにつくられているのだろう。彼らこそ芸術家だと私は常々思うのだけれど、Victoriaの「CHEREVICHKIOTVICHKI」も、もしかしたらそんなところじゃないだろうかと、ちょっと似たものを感じるのだ。

彼女が生きているから生み出さざるを得ない靴。
アイコニックなロゴマークなど持たないそれを履いても、人はその価値に気が付かないかもしれない。それでも、人にどう思われようがお構いなしに、自分自身の豊かさのためだけに履きたくなるのは、「CHEREVICHKIOTVICHKI」の靴が、真の美しさを持っているからに違いない。


CHEREVICHKIOTVICHKI

CHEREVICHKIOTVICHKI

CHEREVICHKIOTVICHKI

あ、言っているうちに、なんだかちょっと、履いてみたくなってきた。




文:山田ルーナ






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