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Le Yucca’sというガラスの靴
  • Le Yucca’s
FEATURE vol.24 Le Yucca’s|レユッカス


もうよい大人の女性だが、靴について考える時に思い出す、おまじないのような言葉がある。


Good shoes take you to good places.

よい靴は、履く人を素敵な場所へ連れて行ってくれる。



その言葉を知ってか知らずか、私自身、小さな頃から美しい靴に憧れがあった。「シンデレラ」のガラスの靴のように、とびきり美しい靴は、とびきり美しい未来を作ってくれるような気がしていた。女の子なら、誰しもそう信じてきたのではないだろうか。
足にやさしく吸い付くような優美な曲線と、無駄のないフォルム…いつかは自分も履きたいと、幼いながらにうっとりしたものだ。

しかし、私は不思議だった。例の言葉は、ガラスの靴のように、華奢で美しいパンプスを連想させる。それでは男性にとって、素敵な場所へ連れて行ってくれるよい靴とは、一体どんなものなのだろう。

男性にとってのフォーマルな靴といえばやはり革靴だろうが、どんなに良いスーツに合わせられた上質な靴も、私にはあまりしっくりこなかった。なんというかその言葉には、繊細で、色っぽい靴が似合う気がしていたのだ。
それにもう一つ。ひと目でそれと分かるような(恋に落ちることができるような)、個性も必要だろう。


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そんな視点で、女性の私が、男性の靴を意識して数年。ついに理想の「ガラスの靴」を見つけたので、この機会に、ここに認めようと思う。


それは、イタリアのレザーシューズブランド、〈レユッカス〉の靴だった。


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〈レユッカス〉は、イタリア在住の日本人女性デザイナー、村瀬由香氏によるシューブランドだ。すべての製品は、世界中にファンをもつイタリアの老舗「Enzo Bonafe(エンツォ・ボナフェ)」の工房で、職人により制作されている。

イタリアっぽい色っぽさというよりは、知性の中の色気のようなものを、〈レユッカス〉の靴からは感じる。メンズの靴でありながら端正な美しさがあり、無駄がない。
その理由はデザイナーが女性だということもあるだろうが、元は「女性向け」に「男性仕様の革靴」を作っていて、その仕様をまた「男性用」にしているというので、大いに納得した。

革靴の魅力を無駄なくまとめたようなキュッとしたフォルム。女性が履いても違和感がないような曲線美。上品な、ちょっと高いヒール。
そのすべてのバランスが、すこしの愛らしさを生み出している。例えが変かもしれないけれど、高級なお人形が履いている、よくできた靴のような。どこか現実ではないような不思議な美しさ。

性別の境目がなく、オーセンティックな革靴。今、そして未来において変わることのなさそうな美しさが、〈レユッカス〉には詰め込まれているのだ。


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採用されている製法は、マッケイ製法と、グッドイヤーウェルト製法。エアエイジでは、主にマッケイ製法による靴を扱っている。グッドイヤーウェルト製法と比べて、軽量で、足なじみがいいのが特徴だ。甲革を直接ソールと縫い付けているので、コバが見えず、洗練された印象を受ける。

しかし何よりも〈レユッカス〉らしさをつくっているのは、その独特のラスト(木型)かもしれない。

実は村瀬氏は、紙にデザインを書かない。ラストに直接、デザインを書き込むという。ラストに線を何本も何本も書き、最も美しいと思えるたった一本の線を採用する。
感覚とデザインが直結していること。これもまた、〈レユッカス〉がもつ自由な曲線美の秘密のひとつと言えるだろう。

村瀬氏は、もともとスポーツ用のシューズ(それもプロ仕様の)を作っていたという異色の経歴を持っており、その経験が、この革靴づくりに生かされているように思う。人間が不快に感じるようなものは、決してつくらない。人体学的に、履きやすいと思うもの。それが結局は、美しいデザインとなるのだ。


エアエイジで展開しているラストは「KARENA」と「BALL」の2型だが、例えば「KARENA」は、つま先にボリュームを持たせる代わりに甲がキュッとしているため、フィット感のわりに足先に開放感があり、履きやすい。
一方「BALL」は、全体的にボリュームがあるが甲の立ち上がり位置を若干削り落とすことにより、足が爪先まで滑らないようになっている。

計算され尽くしたラストに直接書き込まれたデザインは、すなわち究極の機能美ということだ。



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「BALL」を使用した「変形チャッカー」は、トップラインが浅く履き口が通常よりやや広いため、リラックスした大人のイメージ


美しいという言葉が、ここまで似合う革靴があるだろうか。見て楽しみ、履いて楽しむ。女性にとってのパンプスのような、童心の心沸かせる何かが、〈レユッカス〉の革靴にはある気がするのだ。


〈レユッカス〉という、ガラスの靴。
こんなことを言うとちょっとロマンチックすぎるかもしれないけど、私はこの靴が、あなたを素敵なところに連れて行ってくれると、信じている。


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文:山田ルーナ






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