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AFTERHOURS – あなたを含めたセッション / PEOPLE
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PEOPLE vol.4


しょくにん【職人】と辞書で引くと、「手先の技術を使って仕事をする人」と書いてある。たとえば、大工・左官など。自ら身につけた熟練した技術で、つまり手作業で、物を作り出すことを職業とする人たちのことだ。寿司職人や家具職人など、後ろに職人とつくものを挙げるとイメージしやすいだろうか。

フランス語では、artisan(アルチザン)。これはしばし、芸術家を意味するartist(アーティスト)と対になる言葉として用いられる。時に 技術的には優れているが芸術性に乏しい作品への批判的な意味で使われることもある言葉だが、近年では伝統工芸などの技術維持が世界的に注目されていることもあり、その存在が重要視されつつあるそうだ。芸術は本来、熟練の技術なくして語ることのできないものである。そういう意味では職人=artisanは、静かな芸術家とも言えるのかもしれない。


「職人に憧れているんです」と話すのは、エアエイジメンズバイヤーの小原氏。
エアエイジ『PEOPLE』は、そんな小原氏が企画した〝人(職人)〟と〝人(お客様)〟をつなげるためのシリーズである。ファッションという垣根を超えた ものづくりは、消費という枠に収まらず、特別な体験を提供してくれたりする。そんな体験を、お店に訪れる方にお届けしたい。

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|エアエイジバイヤー小原氏


“AFTER HOURS”という言葉の意味


“AFTER HOURS”という言葉をご存知だろうか。アフターアワーズ、つまり時間の後にと訳すことのできるこの言葉は、通常「就業時間後」や「営業時間後」「放課後」という意味合いで使われる言葉だが、実はもう一つ意味がある。

それは「ライヴが終わったあとの時間」。演奏を終えたジャズミュージシャンが仲間同志で集い、思いのままにおこなうジャム・セッションの時間を、“AFTER HOURS”と呼ぶらしい。ジャズ用語だ。

さて、今回この記事でご紹介するブランドは、このジャズ用語から名前をとったブランド〈AFTERHOURS〉。自由なセッションのように服作りをおこないたいという思いのもと生まれたこのブランドについて、エアエイジらしい視点でご紹介する。

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〈AFTERHOURS〉というセッションのようなブランド


自由なセッションのように服作りをおこないたいという思いのもと生まれた〈AFTERHOURS〉は、服好きならばよくご存知であろう4名のデザイナー、パタンナー、生地開発者が集結するブランドである。

京都を拠点とするブランド〈RAINMAKER(レインメーカー)〉の元クリエイティブディレクターである岸隆太朗、エアエイジでもお馴染みのブランド〈SEEALL(シーオール)〉デザイナーの瀬川誠人、尾州を代表する生地メーカー〈タキヒヨー〉のグローバルトレードマネージャー土屋旅人、そして様々なプロジェクト、ブランドの企画・パターンに携わっているパタンナー丸山博人。

京都出身、そして同世代という共通点を持つこの4人。彼らがおそらくそれぞれの違いと重なりを楽しみながら自由に服作りをおこなうのが、この〈AFTERHOURS〉だ。公式サイトの一文が印象的だったので、ここに引用したい。


各々のバックグラウンドが共鳴して生まれる折衷主義とものづくりへの礼賛という共通言語を通じた品質へのこだわりを基に、タイムレスなアイテムを提案する。


さて、本記事で特にご紹介したいのは、ここで言う“ものづくりへの礼賛”と“品質へのこだわり”。エアエイジバイヤーの小原氏は、何故このブランドの取り扱いを決めたのだろう?

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一宮工場にある希少な英式紡績機


エアエイジと〈AFTERHOURS〉の出会いは、2023SS。コットンのセットアップの取り扱いをしたのが始まりだ。

エアエイジのバイヤー小原氏は当時を振り返って、こう話す。

「ただのコットンではない雰囲気に魅せられました。こんなにも奥行きのある風合いは、他で見たことがなかった」

その秘密は、生地の作り方にある。

そのコットンは、英式紡績機という特殊な機械で撚った糸で作られている生地だ。英式紡績機というのは、100年以上の歴史を持つイギリスの紡績機。実は世界的にももう数がない希少性の高い機械で、本国イギリスにおいても博物館に展示されているような代物である。

この紡績機を、エアエイジのある春日井市からも程近い愛知県一宮市の「1751 FACTORY (一宮英式工場)」が持っており、〈タキヒヨー〉はそこで生地制作を行なっているのだそうだ。




バイヤー小原氏は実際にこの工場を訪れ、製造工程を見ることで、その素晴らしさに触れた。

「伝統や歴史から新しい素材を創るというその姿勢に共感しましたし、出来たものが実際に素晴らしかった。これは一般の紡績機や工場ではとても出せない魅力だと感じます」

製造工程を簡単に説明すると、クリンプ(繊維の縮れ)を引き伸ばしながら少しずつ撚りをかけていく工程が英式紡績機の特徴。この工程を繰り返し行ったあと、糸を仕上げる際にクリンプが戻ることで、手で紡いだような膨らみのある糸が出来上がる。

その魅力をさらに深掘りするため、小原氏は2023AWも〈AFTERHOURS〉をエアエイジで展開することに。待望のアウターをご紹介できる運びとなった。

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ここでしか触れられない〈タキヒヨー〉の生地


アウターの展開モデルについてご紹介する前に、英式紡績機と並ぶもう一つの特徴、ピュア・シェットランドについて触れておきたい。

ピュア・シェットランドとは、職人(ソーター)が手作業で選別する原料。ただでさえ希少性の高いシェットランドウールを、手間のかかる方法で丁寧に選別する。そうすることで、繊細で美しい表情とふんわりとした柔らかな質感が同居する、心地よいウールに仕上がるのだ。

ピュア・シェットランドを国内で取り扱うのは、実は〈タキヒヨー〉だけ。2023AWの中にはピュア・シェットランドを英式紡績機で撚った糸も展開されており、まさにここでしか触れることのない生地となっている。

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アウターが揃う2023AW


そんな希少性の高い生地を中心とした4種類の生地で、今期エアエイジでは、3型のアウターを展開する。ダウンジャケット「DOWN SHIRT JACKET」特徴的な襟を持つ「BALMACAAN COAT」そしてシングルブレステッドコート「OVER COAT」。どれも秋冬の定番として取り入れられそうなモデルだ。

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〈AFTERHOURS〉のプロダクトはパターンにも特徴があり、特定のジャンルに依らない折衷的な表現が魅力だ。ダーツ等を駆使した立体性のある西洋的な服の設計と、直線に裁った布を巻き付ける平面性のある東洋的な服の設計、そのどちらものバランスをとるように、独自の解釈でアプローチをしている。

着てみれば分かるだなんて表現は陳腐だが、それでも着てみれば分かる素材感や、着心地。そこには服を着るという楽しみ以上に、知識欲を満たされるような文化的喜びさえ感じられるだろう。

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AFTER HOURS…あなたを含めたセッション


冒頭で“AFTER HOURS”というブランド名の由来となった言葉を紹介したが、そう呼ばれるライヴ後のジャム・セッションでは時に、お客で来ていたミュージシャンなんかも一緒になって演奏をするらしい。

さて、それでは、この記事をお読みいただいたあなたはどうだろう?

この問いこそ本記事のテーマ『PEOPLE』であり、やはりエアエイジは、作り手から使い手まで、人々を繋ぐお手伝いができたらと考えている。

ちなみにバイヤー小原氏はこの出会いをきっかけに、イギリスの伝統的な服作りにさらに関心を持ち、自身の趣味である釣りを入り口として、イギリス発祥であるフライフィッシングと服との関係性により興味が深まったのだという。

それはいわば新たなセッションであり、まだ見ぬ世界とのコミュニケーションだと、私は思う。服は着るだけでなく、その先にある様々なものと繋がれるようなツールだ。歴史や国を越えて、どんなものともセッションできる。

実際に触れてみたいと感じた方は、是非とも〈AFTERHOURS〉の新作をご試着いただきたい。それは〈AFTERHOURS〉の4人や、私たちエアエイジ、また英式紡績機の歴史的背景やそれを受け継ぐ職人たちと、あなた自身とのセッション。

〈AFTERHOURS〉で交わされる無言の会話が、あなたを新しい世界へと連れて行ってくれることを願って。

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